静岡県に広がる茶畑の風景は、訪れる人に静岡らしさを感じさせてくれる風景である。この茶畑の周囲をよく見ると、茶園に敷く草を刈り取る「茶草場(ちゃぐさば)」が点在している。静岡では当たり前過ぎて、誰も気に留めないが、じつはこのような草刈場は他ではほとんど見られず、静岡県に特徴的に見られる風景である。
人々のライフスタイルが変化した現代では、農業の営みによって生物多様性が失われることも少なくない。しかしながら、「茶草場」では、近代化された茶産地の中で、さらに高品質な茶を生産しようとする農家の方々の努力によって、豊かな生物多様性が保全されてきた。このように農業と生物多様性が同じ方向を向いて両立していることが世界から注目され、高く評価されるようになった。そして2013年、【静岡の茶草場農法】は『世界農業遺産』に認定された。
世界農業遺産は、生物多様性を守るための制度だが、ただ貴重な植物を守ればそれでよいという話ではない。評価されているのは、単なる生物多様性だけではなく、良いお茶づくりにひたむきに励んできた“静岡県の茶農家の誇り”である。そして、世界が注目する「静岡の茶草場農法」を次世代に残すために期待されることは、おいしいお茶を作る茶生産が未来に向けて発展し続けていくこと。世界農業遺産としての誇りを持ち、“おいしいお茶を作ることによって、人も生きものも幸せになる”、そんな「静岡県のお茶」を世界の未来に向けて発信していきたい。